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東京地方裁判所 平成11年(ワ)21134号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 中野博保

被告 東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 丸茂晴男

右訴訟代理人弁護士 松吉威夫

同 柏木秀夫

同 鈴木邦人

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一二四二万六〇七五円及びこれに対する平成一一年九月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、その所有する自動車について、被告との間で車両保険を含む自動車保険契約を締結していたところ、右自動車が盗難に遭ったとして、自動車保険契約に基づき、車両保険金額のうち実際の購入価額に相当する保険金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、平成一〇年一〇月二日、被告との間で、次の内容の自家用自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。(争いがない。)

(一) 被保険自動車(以下「本件自動車」という。)

用途車種 自家用普通乗用車

車名 メルセデスベンツ

仕様 S六〇〇

登録番号 品川三三〇ひ九九九九

車台番号 WDB一四〇〇七六-一A一八七三一七

型式 E-一四〇〇七六

初度登録年月 平成六年一〇月

(二) 保険金額

対人賠償 無制限

自損事故 一五〇〇万円

無保険車傷害 二億円

対物賠償 無制限

搭乗者傷害 一名につき一〇〇〇万円

車両 一三〇〇万円

(四) 保険期間

平成一〇年一〇月二日から平成一一年一〇月二日まで

(五) 保険料

四六万〇五六〇円(初回は七万六七六〇円、二回目以降は三万八三八〇円とする一一回の分割払)

2  本件保険契約に適用される約款(以下「本件保険約款」という。)によれば、被保険自動車の用途車種が自家用普通乗用車である場合には、車両保険に車両価額協定保険特約が適用され、同特約によれば、被告と保険契約者は、保険契約締結の時における被保険自動車と同一の用途・車種・車名・型式・仕様・初度登録年月の自動車の市場販売価格相当額を被保険自動車の価額として協定し、その価額(以下「協定保険価額」という。)を保険金額として定めるものとし、右市場販売価格相当額とは、被告が別に定める「自動車保険車両標準価格表」(以下「標準価格表」という。)に記載された価格をいい、同特約が適用される被保険自動車の全損(盗難も含まれる。)の場合に、被告が支払うべき損害額は、協定保険価額とされている(同特約一条ないし三条)。(乙第一号証)

3  また、本件保険約款には、告知義務違反及び詐欺に関して、次のとおりの条項がある。(乙第一号証)

(一) 保険契約締結の際、保険契約者又はその代理人が、故意又は重大な過失によって保険申込書の記載事項について、知っている事実を告げず又は不実のことを告げた場合は、被告は保険契約を解除することができる(第六章三条一項)。

(二) 被保険自動車の協定保険価額を定めるに際し、保険契約者又はその代理人が故意又は重大な過失によって被告が被保険自動車の価額を評価するために必要と認めて照会した事項について、知っている事実を告げず又は不実のことを告げ、その結果として協定保険価額として定めるべき額と異なった協定保険価額が定められた場合には、被告は保険契約を解除することができる(車両価額協定保険特約六条)。

(三) 右(一)、(二)の解除は、将来に向かってのみその効力を生じるが、解除が損害又は傷害の発生した後になされた場合であっても、被告は保険金を支払わない(第六章三条三項、車両価額協定保険特約六条三項)。

(四) 保険契約締結の際に、保険契約に関し保険契約者又はその代理人に詐欺の行為があった場合は、保険契約は無効とする(第六章九条一号)。

4  原告の妻のBは、平成一一年四月一一日、警視庁板橋警察署長に対し、本件自動車が、同年四月一〇日午後一〇時ころから一一日午後二時ころまでの間に原告方駐車場から盗まれたとする被害届を提出した。(甲第八号証)

5  被告は、平成一一年七月一八日に原告に到達した内容証明郵便で、原告に対し、本件保険契約締結時に本件自動車の購入価格について事実と異なる申告をしていたことを理由に、告知義務違反により本件保険契約を解除する旨の意思表示をした。(乙第二号証の一、二)

二  争点

1  盗難事故の存否

(一) 原告の主張

本件自動車は、平成一一年四月一〇日午後一〇時ころから一一日午後二時ころまでの間に、肩書住所地の原告宅敷地内の駐車場から何者かによって盗まれた。その際は、原告が不在中であったので、原告の妻が警視庁板橋警察署長に対して盗難届を提出した。

(二) 被告の主張

原告主張の盗難事故については、客観的な裏付けがなく、原告の妻が警察に被害届を出すまでの状況に関する原告の説明等に不自然な点があるから、盗難事故の発生は認められない。

2  告知義務違反の存否

(一) 被告の主張

協定保険価額算定の基礎となる標準価格表では、本件自動車と同等の車両の価格は七九五万円ないし九九〇万円とされていた。しかし、原告は、本件保険契約締結の際、右標準価格表より高い保険金額を希望し、保険代理店であるライジングサンの担当者に対し、本件自動車の購入価格を一〇二二万二六〇〇円とする自動車注文請書を提出したほか、購入後に本件自動車を特別仕様(AMG仕様)にするため付加したタイヤホイル等の装備品などの購入費用として合計四一五万七六八五円の請求書及び見積書を提出したため、被告は、これらを前提に車両の保険金額を一三〇〇万円とする本件保険契約を締結した。ところが、その後の調査の結果、原告による本件自動車の実際の購入価格は七五〇万円を超えるものではなく、取得後に付加された装備品等の購入価格は二四二万六〇七五円であって、右装備品などの購入価格を加えても、車両価格は九九二万円余りにすぎないことが判明した。原告は、本件保険契約締結の際、事実と異なる価額が記載された自動車注文請書及び装備品の見積書等を提出していたものであり、しかも、装備品については、実際に購入していない合計一七三万一六一〇円の物品が含まれていた。

右のとおり、原告は、本件保険契約の締結に際し、被告に対し、本件自動車の価額について、実際より著しく高額な不実の告知をしたものであり、右行為につき、原告に故意又は重過失があることは明らかであるから、原告の行為は、本件保険約款第六章三条一項、車両価額協定保険特約六条の告知義務違反に該当する。

(二) 原告の主張

原告は、本件自動車を中古車販売業者であるビッグムーンこと姫野浩臣から一〇〇〇万円で購入し、その後、タイヤホイル等の装備品を合計二四二万六〇七五円で取得して本件自動車に付加した。したがって、本件自動車の価額は、右車両本体価格と装備品等の合計一二四二万六〇七五円であり、保険金額一三〇〇万円が実際より著しく高いとはいえず、原告に告知義務違反はない。

3  詐欺の存否

(一) 被告の主張

前記のとおり、原告が、意図的に虚偽の価格等が記載された書類を提出して本件自動車の価額を実際より高く申告し、被告に本件保険契約を締結させた行為は、詐欺に該当する。

(二) 原告の主張

装備品等を含む本件自動車の価額は前記のとおりであり、原告が、被告を欺罔して本件保険契約を締結させたことはない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

甲第八号証、乙第九号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件自動車は、平成一一年四月一〇日午後一〇時ころから一一日午後二時ころまでの間に、原告方の駐車場に駐車中に何者かによって盗まれた事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

この点について、被告は、本件自動車が盗難に遭ったことを客観的に裏付ける証拠がないことなどを理由に、右盗難の事実を争っているが、甲第八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告の妻は、原告が大阪方面に仕事で出張して不在中に、自宅の敷地内駐車場に駐車してあった本件自動車が無くなっているのに気付き、原告に電話で連絡をした上で、直ちに板橋警察署長に被害届を提出していることが認められ、その経緯に特に不自然な点を認めることはできないから、本件自動車の盗難の事実については、これを認めるのが相当である。

二  争点2について

1  本件保険契約締結時の状況

甲第三ないし第五号証、第一〇号証、証人小宮忠の証言及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、藤沢企画の名称で無登録の金融業を営んでいる者であるが、知人の紹介で被告の保険代理店であるライジングサン(経営者は那須喜市)を知り、平成一〇年一〇月二日、本件自動車の自動車保険加入手続を依頼するため、ライジングサンの従業員である小宮忠に会った。

(二) 小宮は、被告の標準価格表を基礎に車両の評価をしようとしたところ、原告が「車両保険を目一杯のところに入れてくれ」などと言って保険金額を高額にすることを希望し、本件自動車には特別な仕様等を施しているというので、被告担当者の指示で、原告に車両及び装備品等に関する資料の提出を要請した。

(三) 原告は、右小宮の要請に対し、本件自動車の販売店であるビッグムーンこと姫野浩臣が作成した自動車注文請書(甲第三号証)、有限会社アイビーオートの請求書(甲第四号証)、株式会社磯タイヤの連絡書(甲第五号証)を小宮に提出した。右自動車注文請書には、本件自動車の現金価格を一〇二二万二六〇〇円(車両本体価格九三八万円、消費税四六万九〇〇〇円、諸費用三七万三六〇〇円)とする記載があり、右請求書には、ナビゲーション装置等の代金を九九万九〇七五円とする記載があり、右連絡書には、本件自動車をAMG仕様(車両のパーツの一部をべンツの特別仕様車であるAMGのものに交換、追加したもの)とするための各種の装備品(エアロフロント、タイヤホイール等)の販売価格を三一五万八六一〇円とする記載がある。

(四) 本件保険契約締結時の被告の標準価格表(乙第一二号証)による本件自動車と同等の車両の価格は、七九五万円ないし九〇〇万円とされていたが、小宮は、原告から提出された前記資料(これによる車両価格と装備品等の合計金額は一四三八万〇二八五円)の記載と実際に本件自動車を見分した結果から、本件自動車の車両保険金額を一三〇〇万円として原告からの保険契約締結申込みを受け、前記資料とともに申込書を被告の担当者に送付した。なお、小宮は、本件自動車を見分して、前記請求書及び連絡書に記載された各種装備品がすべて装着されているものと判断していた。

(五) 被告は、小宮から送付を受けた保険申込書及び前記資料を前提に、原告との間で車両保険の保険金額を一三〇〇万円とする本件保険契約を締結した。

2  本件自動車の実際の購入価格

(一) 甲第七号証、乙第三号証の一ないし三、証人姫野浩臣の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、大分市内でビッグムーンとの名称の中古車販売業を営んでいた知人の姫野浩臣にベンツの購入を依頼していたところ、平成一〇年五月末ころ、本件自動車がオークションで売りに出ているとの連絡を受け、同年五月二七日に代金として七五〇万円を同人に振込送金し、本件自動車を購入したこと、本件自動車は、姫野の依頼で有限会社インターヨーロッパが中古車オークションで落札し、同年五月二八日に姫野に売り渡したものであり、オークションでの落札価格は六九九万九八七〇円(車両価格六六四万円、消費税三三万二〇〇〇円、手数料等二万七八七〇円)、姫野への売渡価格は七〇五万五〇〇〇円であったことが、それぞれ認められる。

(二) 原告は、本件自動車を姫野から一〇〇〇万円で購入した旨本人尋問で供述し、姫野も証人尋問でこれにそう証言をしている。

しかし、原告から姫野への代金支払については、七五〇万円の振込金受取書(甲第七号証)があるだけで、それ以外に代金が支払われたことを裏付ける領収書等の書類は存在しない。原告及び姫野証人は、原告が残金二五〇万円を二回に分けて現金で支払ったとする供述をしているが、いずれの供述でも各回に支払われた金額すら明確ではないのみならず、姫野の本件自動車の前記仕入価格七〇五万五〇〇〇円と、両名が供述する原告への売渡価格との間には三〇〇万円近い差があるが、姫野証人は右差額について何ら合理的な説明をしていない。

さらに、本件では、原告が本件保険契約締結の際に被告に提出した前記自動車注文請書(甲第三号証)と、原告が盗難事故発生後に被告に提出した姫野作成の見積書(乙第五号証)が提出されているが、前者に記載された車両価格は一〇二二万二六〇〇円であり、後者に記載された車両価格は九五〇万円であって、いずれも右原告及び姫野が供述する代金額と異なる上、原告は、本人尋問において、これらの書類が本件自動車購入の際に作成されたものではなく、保険加入時と盗難事故後の調査時に被告に提出するために、原告が姫野に「適当でいいから書いてくれ」などと言って作成させた旨の供述をしているから、右書類の代金額は信用性がないというべきである。

右に述べた点に、甲第八号証によれば、原告の妻が板橋警察署長宛に提出した本件自動車の被害届には、本件自動車の時価が約七〇〇万円相当と記載されていることが認められること及び乙第七号証によれば、姫野は、保険調査員に対し、本件自動車を原告に販売する際に手数料として取得価格に上乗せした金額は三〇万円から四〇万円である旨述べていたことが認められるが、本件自動車の原告への実際の売渡価格が七五〇万円であるとすれば、右保険調査員に対する供述ともほぼ符合することなどを考慮すると、原告の本件自動車の真実の購入価格は七五〇万円であると認められ、これに反する原告本人及び証人姫野の各供述は採用できない。

3  装備品等の価格

甲第六号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件自動車に付加された装備品等のうち、有限会社アイビーオートの請求書(甲第四号証)に記載されたナビゲーション装置等の代金九九万九〇七五円は実際の購入代金であるが、株式会社磯タイヤの連絡書(甲第五号証)に記載された本件自動車をAMG仕様とするための各種の装備品(エアロフロント、タイヤホイール等)の価格三一五万八六一〇円は、実際の販売価格とは異なる定価が記載され、しかも、実際には購入していない装備品(サスキット、ステアリング、エントランスモール及び各取付調整費用合計九六万四〇〇〇円)が記載されており、原告が実際に株式会社磯タイヤに支払った代金は一四二万七〇〇〇円であったが、原告は、右事実を知りながら、本件保険契約締結の際に、本件自動車の装備品等に関する資料として右書類を提出したことが認められる。

4  告知義務違反の存否

右1ないし3に認定したところによれば、原告は、本件保険契約締結の際、本件自動車の購入価格が七五〇万円であるにもかかわらず、これを一〇二二万二六〇〇円とする自動車注文請書(甲第三号証)を被告に提出したほか、本件自動車を特別仕様とするための装備品等についても、被告代理店の小宮を通じて被告担当者がした資料の提出の要請に対し、付加していない装備品を含めて実際より一七三万一六一〇円高い価格の記載された請求書(甲第四号証)及び連絡書(甲第五号証)を被告に提出し、被告は、これを前提に車両保険金額を標準価格表の上限価格より四〇〇万円高い一三〇〇万円とする本件保険契約を締結するに至ったものであって、原告の右行為は、保険契約締結の際、保険契約者が、故意により保険申込書の記載事項について知っていることを告げず又は不実のことを告げた場合(本件保険約款第六章三条一項)及び被保険自動車の協定保険価額を定めるに際し、保険契約者が、故意により被告が被保険自動車の価額を評価するために必要と認めて照会した事項について知っている事実を告げず又は不実のことを告げ、その結果として協定保険価額として定めるべき額と異なった協定保険価額が定められた場合(車両価額協定保険特約六条)に該当すると解される。

そうすると、被告が、本件自動車の購入価格について事実と異なる申告をしていたことを理由に、平成一一年七月一八日に原告に到達した内容証明郵便で、原告に対し、本件保険契約を解除する旨の意思表示をしたことは前記のとおりであるから、被告は、本件保険約款第六章三条三項、車両価額協定保険特約六条三項により、原告に対する保険金支払義務を負わないことになる。

したがって、被告に保険金支払義務があることを前提として、本件自動車の車両保険金の支払を求める原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がない。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺尾洋)

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